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【中小企業白書2023年版】中小企業の実態に関する構造分析を読む

【中小企業白書2023年版】中小企業の実態に関する構造分析を読む

”中小企業白書2023年版 第1部令和4年度(2022年度)の中小企業の動向”から、”第3章 中小企業の実態に関する構造分析”を読んでいきます。

2023年版中小企業白書

 

前回記事はこちら

【中小企業白書2023年版】2022年中小企業の動向を読む

【中小企業白書2023年版】激変する外部環境と中小企業の取組みを読む

 

中小企業の実態に関する構造分析

企業間取引・価格転嫁の現況

2022年は円安や原油高などもあり、原材料費やエネルギー価格が大きく上昇しました。

そこで、中小企業は価格転嫁ができているのかを記載されています。

 

はじめに交易条件の動向が記されています。

これを見ると2000年頃を境に、大企業と中小企業の差は広がっています。

2000年代前半は規制緩和が進められた小泉政権と被ります。

白書の趣旨とは異なりますが、こうしてみると規模間格差は広がったままと言えます。

 

次に企業規模別にみた価格転嫁力の推移です。

こちらは製造業の価格転嫁力の推移になりますが、コロナ以前は大企業製造業の場合価格転嫁力指標はプラス水準でしたが中小企業は2016年を除きずっとマイナス圏であり、かつコロナでその差は広がったことが伺えます。

「価格転嫁力指標」とは、販売価格の変化率と仕入価格の変化率の違いから、仕入価格の変化分をどの程度、販売価格に転嫁できているか(=価格転嫁力)を数値化したものとされていますので、いかに中小企業の価格転嫁力が低いかが読み取れます。

 

価格転嫁がコスト別にどれだけできているのかの指標です。

原材料費のコストアップは2022.9の調査では約半分の48.1%が転嫁できているのに対し、エネルギー価格の上昇は29.9%と約3割にとどまっています。

しかも、2022.3よりも比率が下がっています。

労務費も価格転嫁が難しいようで、どの会社も原材料費が上昇していることを実感しているため、原材料費に関しては受け入れられやすかったのでしょうか。

この辺りは興味深いところです。

一方で、価格転嫁ができたのは全体の半数未満に過ぎないとも言えます。

 

賃金の現況

厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」を基にした最低賃金の推移です。

現在国をあげて、賃金引き上げに取組んでいます。

最低賃金は毎年3%程度の上昇が続いており、20年前と比べると44.9%も上昇しています。

にもかかわらず、国民の生活が豊かになったと実感している人はそんなにいないのではないでしょうか。

最低賃金を押し上げても、全体的な押上が無いと実感できないのかもしれません。

 

こちらは従業員規模別にみた時間当たりの所得うち給与額の分布です。

これを見ると、時給1000円近くが多くなっています。

それだけ、最低賃金付近で働く人が多いということなのでしょうか。

 

こちらは従業員規模別にみた所定内給与額の差です。

グラフを見ると、大企業中小企業ともに2000年あたりを境に減少をして、横ばいが続いています。

2014年あたりからは人手不足も深刻化しつつあったので緩やかな上昇を見せていましたが、コロナでその勢いが止まったように見えます。

 

今度は業種別の所定内給与額の推移となります。

大企業、中小企業ともにリーマンショック後減少し、コロナでは業種によっての差が生じています。

 

ここからは賃上げの動向になります。

賃金改定率の推移が示されています。

白書では、「大企業と中小企業の一人当たり平均賃金改定率は約 1.7%となっており、規模別に見ると賃金改定率には大きな差がないことが分かる。」と書かれていますが、上記指標で示されていたように大企業と中小企業ではそもそもの給与額が異なります。

例えば平均年収600万円の大企業と平均年収300万円の中小企業を比較した場合、同じ1.7%でも金額にすると5.1万円の差が生じます。

中小企業の伸びが大企業を上回らない場合、差が縮まらないことになります。

 

こちらは中小企業・小規模事業者における賃上げの状況 です。

年を追うごとに賃上げを実施している企業が増えていますが、一方で賃上げを行わない企業も増えてます。

これはコロナの影響も業種によって大きくあったのだろうと思われます。

一方で、今だコロナの影響もあったであろう2022年でも賃上げを実施した企業が増え、賃金の引き上げは行わない企業は減っています。

 

こちらの指標は、賃上げと生産性等の関係性について分析したものです。

白書の文章ではよく理解しにくかったのですが、設備投資をすると労働生産性も上がり、期待成長率と名目賃金上昇率は企業規模に関わらず正の相関があるとのことです。

単純に言うと、「成長期待があると設備投資して生産性が上がり、賃上げできる」となっています。

やみくもに設備投資をすればいいということでもないが、設備投資をしなければ生産性も上がらないので、賃上げができない、と言うことでしょうか。

 

生産性の現況

賃上げには生産性の向上が必要との事で、ここからは生産性の現況が示されています。

はじめに、企業規模別にみた従業員一人当たり付加価値額(労働生産性)の推移です。

これを見ると、大企業と中小企業の差がハッキリ出ています。

その差、ザっと約3倍弱。

付加価値額がいわゆる賃金の原資になりますので、大企業の付加価値が高いためそりゃ高収入になります。

一方これだけ差があると、「価格転嫁も認めず、低価格で中小企業からモノやサービスを提供されているのでは?」と、うがった見方もしてしまいます。

それだけ、需要を喚起して、知的労働で付加価値を高めることが大変なのかもしれませんが。

 

こちらは企業規模別にみた労働分配率の推移です。

ここで示されている労働分配率とは、付加価値に占める人件費とされています。

簡単に言うと、付加価値がどれだけ人件費として還元されているかとなります。

これを見ると、規模の小さな企業ほど人件費として還元されています。

注意点としては、人件費には役員給与が含まれていますので、そのまま付加価値が均等に従業員一人当たりに分配されているかと言うと、少し違ってくると思います。

ですがこれだけ差があると、「大企業は余力も持てるし、新たな事業へのチャレンジや設備投資も容易になるだろうな」と言った気もします。

 

地域の包摂的成長

この節では、東京圏と地方圏における企業や個人に視点がおかれています。

東京圏とは、東京、神奈川、千葉、埼玉の1都3県となり、地方圏とはそれ以外の都道府県です。

ちなみに「包摂的成長」とは、

「貧困解消や格差是正等を通じて『誰一人取り残さない』社会の実現に向けて、収入及び機会の格差を解消する方策を取ることで、結果としての国全体の経済成長を実現すること。経済産業政策では、機会の格差(事前分配の格差)の解消を通じた経済成長の実現を特に重視」

(経済産業省産業構造審議会経済産業政策新機軸部会(第 13 回)より)

と解説されています。

 

まずは地域別・常⽤雇⽤者規模別に⾒た、常⽤雇⽤者総数です。

この図を見ると、東京圏の小規模企業者に勤める人は地方圏の半分で、5000人以上の規模は3倍です。

しかも全体の1/3の人が東京圏で働いている事になります。

 

いかに東京圏に集中しているかを示していましたが、そもそもなぜ東京圏へ人が集まるのかを調査した資料が、

男女別に見た東京圏への流入者の移住の背景です。

こちらの資料によると、そもそも地元に希望する職種や進学先が無かったり、自身の能力が活かせないといった動機が多いです。

また、男性では賃金等の待遇面も重要視されています。

 

ですが国も、そもそも本当に東京圏は住みやすいのか?といった疑問があるようで、国土交通省が都道府県別の実質的な可処分所得と基礎支出の差額を示しています。

企業等の東京一極集中に関する懇談会 とりまとめ(参考資料)

この参考資料はなかなか面白い内容でした。

白書では、収入が多くても、生活費が高い東京圏で住むことは、差引すれば決して豊かになるとは言えないことを伝えたかったのだと思います。

こちらの表は、その元となった国土交通省の資料です。

 

また、お金の面だけでなく、時間の面も示しています。

こちらは総務省の資料を参考に作成されています。

ちなみに国土交通省の資料にも、通勤時間を差し引いた資料が参考に付け加えられています。

中小企業庁は、「東京圏以外の地域は賃金等の待遇条件が必ずしも十分ではないが、実感的な可処分所得、可処分時間は地方圏と比べても差が少ない」と結論づけています。

 

そしてさらに突っ込んで、結婚・子育てのの関連を調べています。

中小企業庁がここまで考察するとは思っていませんでした。

国にとって少子化がいかに重要な課題かが垣間見えます。

これらのことから、明らかに経済的な理由が真っ先に出ています。

少子化の原因は一つではないでしょうが、これだけ圧倒的に経済的な理由が出ていますので、子育てや教育にお金がかからない社会、もしくは、将来収入が描けて子育てや教育にかかるお金を稼げる希望を持ってもらうことが大事であると考えます。

 

白書の結びでは

本章では、中小企業・小規模事業者における価格転嫁の状況は、感染症流行後厳しい状況にあるが、徐々に改善しつつあることを示した。また、足下の最低賃金引上げ
や春闘の動きを受けて、中小企業・小規模事業者において賃上げが進みつつあることや、賃上げに向けて価格転嫁や生産性向上が重要であることを示した。また、賃上げ
に限らず、若者・女性が「稼げる仕事・豊かな暮らし」を享受できるように地域社会を創ることが、実質可処分所得や可処分時間が少ない東京圏から地方へ若者・女性の
人口移動を促し、少子化対策にも貢献し得ることを示した。

と記載されています。

また、賃金等の待遇条件が良い雇用環境の整備を通じて、若者・女性の活躍を促し、自社の業績向上につなげている企業を紹介していますので、中小企業でもできると示したいのだろうと思います。

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