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【分析】障がいや病気などでも快適に着られるよう工夫されたアパレルブランド 2025年版 前編

投稿日 2025.02.25 最終更新日 2025.02.27
2023年3月28日付のブログ「【分析】障がいのある方向けのアパレルブランド」では、さまざまなブランドを紹介しました。
今回は、スタッフSiが改めて「国内」「国外」のアパレルブランドを調査。市販の服が着にくいと感じる方々にも快適に着られるアイテムを展開しているブランドを、前後編の2回に分けて紹介します。
洋服の選択肢が広がる動き
服に関する悩みは、障がいや病気、加齢とともに増えていくものです。
しかし、現状では選択肢が限られてしまうことも少なくありません。
一方で、SDGsの目標達成を含め、誰もが自由に服を選べる社会を目指し、多くのアパレルブランドが障がいや病気があっても諦めなくてよいファッションの選択肢を広げる取り組みを続けており、ここ数年、その動きはさらに活発になっています。
日本の「インクルーシブファッション」
日本では「インクルーシブファッション」という言葉をよく聞きますが、欧米では「アダプティブウェア(Adaptive Wear)」と呼ばれる服が一般的です。
- アダプティブウェア(Adaptive Wear): 環境や状況に適応するという意味で、主に障がいや病気に応じた機能を持たせた服を指す。
- インクルーシブファッション: 機能特化型の服ではなく、「誰でも着られる」ことを重視したデザインが特徴。
この背景には、日本特有の文化やビジネスの考え方が関係していると考えられるのではないでしょうか。
まず、日本ではバリアフリーやユニバーサルデザインの概念が広く浸透しており、特定の障がいに特化したデザインではなく、できるだけ多くの人が同じデザインを着られることを重視する傾向があります。
また、「障がい者向け」と明示することで分断を生まないように配慮し、「すべての人が選べる服」として提供するブランドが多いのも特徴です。
さらに、ビジネス面では「誰でも着られる」デザインにすることで、特定のターゲットに限定せず、多くの消費者に向けて展開可能。
アダプティブウェアは特定のニーズに特化するため、小ロット生産になりがちですが、ユニバーサルなデザインなら量産が可能になり、販売コストを抑えられるのです。
また、日本企業は近年SDGsやダイバーシティの推進を重視しており、「一部の人だけでなく、すべての人が選べる服をつくる」というコンセプトが企業価値の向上にもつながっていきます。
一方、欧米では障がいの種類ごとに最適な機能を持たせたアダプティブウェアが発展しており、日本とは異なるアプローチが主流です。
これは、欧米では障がい者の権利についての意識が広く根付いている、ということが影響していると考えられます。
両者にはそれぞれの良さがあり、日本でも今後、より幅広い選択肢が増えていくことが期待できるのではないでしょうか。
「インクルーシブデザイン」の広がり
また、企業の間で 「インクルーシブデザイン」 の考え方が広がっていることも、一つの理由として挙げられます。
インクルーシブデザインとは、今まで一部のユーザー(障がいや病気のために不便を感じる人)が排除されてきた原因(課題)を見つけ、それを解決することで新しい価値を生み出す手法です。
この手法では、最初から当事者と一緒に取り組むことが重要になります。
服に不便を感じる人とともに開発することで、これまでになかったより着やすい服が生まれるのです。
なお、インクルーシブデザインには明確な定義があります。
詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
【経営】『インクルーシブデザイン』とは何か。体験会へ参加し、本を読んで考えた。
誰もが洋服を好きなように選び、ファッションを楽しめる社会を願い、2025年現在の最新情報をまとめました。お読みいただけましたら幸いです。
今回も、関連する団体につきましては敬称略で記載させていただきます。ご了承ください。
また、価格は記事執筆時点(2025年2月)の金額です。最新の価格は各サイトでご確認いただくようお願いします。
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YEW BERRY ―Ku-s’
オンラインショップ: https://www.ku-s.jp/cathand/list.php
最初にご紹介するのは、弊社の支援企業である Ku-s’ が展開するブランド YEW BERRY です。(トップバッターで恐縮ですが、ご容赦ください!)
【概要】
情熱あふれる大阪船場の三姉妹 による、着る人の悩みに寄り添ったレディース向けアパレルブランドYEW BERRYでは、企画段階から障がいのある方々にも開発にご参加いただき、そこに Ku-s’が培ってきた洋服の「お悩み解決」の知識と技術を融合。
ファッション性と機能性を兼ね備えた洋服を生み出しています。
【主な商品の価格】
シアーメッシュタートルカットソー:¥6,600
ハイウエスト マーメイドスカート:¥11,000
カットソー×布帛ドッキングワンピース:¥16,500
【コメント】
2023年に企画をスタートし、2024年にはCAMPFIREでのクラウドファンディングから本格的に展開しています。
その後もマルイでのポップアップストア、インテックス大阪での展示会出店、宝塚北サービスエリアでのポップアップイベント開催など、小さな企業ながら精力的な活動を継続中。
私自身も上記3商品を愛用しており、細部まで行き届いた配慮や、その背景にあるブランドの熱い想いにすっかり魅了されました。
また、今期はマグネットボタンを採用したセーラーカラーシャツやシャーリングブラウスなど、デザイン性と着脱のしやすさを両立したアイテムが登場しています。
「可愛さ」と「快適さ」の両方を叶えるYEW BERRYの洋服は、多くの方にとって新たな選択肢になるはず。
これまでの取り組みについては、ぜひ以下の記事もご覧ください。
【新事業開発支援】機能性とファッション性を合わせ持つ「誰もが選べる洋服」YEW BERRY(イエローベリー)開発編
【新事業開発支援】機能性とファッション性を合わせ持つ「誰もが選べる洋服」ド「YEW BERRY(イエローベリー)」<開発編>
【掲載】神戸新聞朝刊にインクルーシブデザインの取組が掲載されました
https://nautical.co.jp/kobeshinbun-inclusivedesign-keisai/
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Through sleeve ―株式会社KUTO
公式サイト: https://kuto.jp/through-sleeve/
【概要】
島根県にある株式会社KUTOが展開する「誰でも自由に気楽にファッションを楽しめる」シャツの専門店です。
マグネットボタンや脇部分にストレッチ性の高い生地を使用することで着やすくしたシャツを自社で縫製、販売中。2023年、国際ユニバーサルデザイン協議会「ユニバーサルデザインIAUD国際デザイン賞2023」で銀賞を受賞したそうです。(公式サイトより)
今後はパンツなどの商品展開もしていくようで、販売サイトにレディースパンツも1種類販売されていました。
【主な商品の価格】
ブラウス:¥8,800〜¥16,500
シャツ:¥13,200〜¥17,600
※セミオーダー可能
【コメント】
マグネットボタンの服を作っている会社さんを探していたところ、こちらのブランドに辿りついたのですが、2023年頃日経MJに掲載されていた記事を思い出しました。
今回、改めて商品を拝見しましたが、ディスプレイを介してもシャツのピシッと感が伝わってきて、とても着やすそうな素敵な商品だとあらためて実感。
脇の部分の別布に、シャツの色とは異なる色を選んでいることに膝を打ちました。生地が違うと色も微妙に違ってしまうもので、ともするとそこだけくすんだ色に見えてしまいそうなところを、いっそのこと全く違う色にすれば解決できる上にデザインになるのですね。
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キヤスク with ZOZO
ブランドページ: https://zozo.jp/brand/kiyasukuwithzozo/
プレスリリース: https://corp.zozo.com/news/20240806-kiyasuku_with_zozo/
【概要】
障がいや病気のある人への洋服のお直しサービスを提供するキヤスクを運営する(株)コワードローブとZOZOTOWNを運営する(株)ZOZOが、「Made by ZOZO」という(株)ZOZOが展開する生産支援プラットフォームを通じ、インクルーシブウエアを受注販売できるサービスを提供しています。
キヤスク・・・持っている洋服を、要望に合わせて着やすくお直しするサービス。
https://kiyasuku.com
Made by ZOZO・・・生産支援プラットフォーム 。1着からの生産が可能で、ZOZO提携工場で生産し物流までを一括サポートするサービス。
ファッションブランドは在庫リスクがゼロになります。ZOZOの持つ膨大なファッション関連データやノウハウに基づいて商品企画も提案してもらえるサービスです。
【主な商品の価格】
パンツ:¥11,980〜¥14,980
※受注生産 最短14日で発送。
【コメント】
新聞などで何度かお見かけしたことのあるキヤスクとZOZOが協力して服作りをするということで、今後どのようなデザインの服が出てくるのかとても楽しみです。
「Made by ZOZO」を初めて知ったのですが、この取り組みもすごいことだと思いました。冒頭で述べた小ロット問題を見事に解決しています。アダプティブウェアのネックの一つは小ロット生産なので、それはこのプラットフォームが解決してくれるということですね。
「Made by ZOZO」は他にもアパレル業界が抱える様々な課題を解決するプラットフォームだと思います。この記事では取り上げませんが、ご興味のある方はぜひ調べてみてください。
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Play Fashion for! ALL ―アダストリア
公式サイト: https://www.dot-st.com/disp/itemlist/?dispNo=002001270
インスタグラム: https://www.instagram.com/adastria_playfashionforall/
【概要】
GLOBAL WORK やniko and…など多くのブランドを展開するアダストリアによるインクルーシブファッションへの取り組みです。
さまざまなブランドの服から、障がいや病気のある方にとって着やすい服を検索できる仕組みを用意。
インスタグラムでは実際にさまざまな方の着用画像が掲載されていて参考になります。
さらに調べたところ、医療・福祉を提供する会社とのイベント開催についてのレポートを記載したプレスリリースも見つけました。こちらでは、お悩みを解決する機能をつけた商品の展示販売もあったそうです。
プレスリリース: https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000002444.000001304.html
【コメント】
既存のブランドの服のなかから検索できるようにするというのも、とても素敵な取り組みだと感じました。
最初はアダプティブウェアから始まった「Play Fashion for! ALL」が、現在は「誰にでも」という日本的インクルーシブな取り組みになっているのは、冒頭に述べさせていただいた日本の特性の現れではないでしょうか。
現在、こちらのサイトは株式会社アダストリア・ゼネラルサポートという障がいのある人の雇用促進と業務サポートをする企業を運営しているそうです。(上記プレスリリースより)
当事者の方々と臨機応変に継続してチャレンジしているアダストリアを見習って、私たちもチャレンジしていきたいと思います。
5.裏表のない世界 ―オールライト研究所(フェリシモ)
公式サイト:https://www.felissimo.co.jp/arl/arl_fsc.html
【概要】
「裏表のない世界」は、フェリシモの オールライト研究所 が開発した、前後や裏表を気にせず着られる服 のシリーズです。
視覚に障がいのある方や、片手での着脱が難しい方も使いやすくおしゃれに着こなせるように作られました。デザインの工夫により、どの向きでも違和感なく着られるため、直感的に着用できるのが特徴。見た目にもおしゃれで、誰でも取り入れやすいシンプルなデザインに機能性とファッション性を兼ね備え、すべての人が気軽に楽しめるファッションを目指したアイテムです。
また、オールライト研究所はフェリシモが運営するプロジェクトで、 「そのままで楽しく暮らせる社会」 を目指し、幅広い人が快適に使える商品を開発しています。
障がいのある方や暮らしの中でちょっとした不便を感じる方の声を取り入れながら、誰にとっても優しいデザインを追求しています。「裏表のない世界」はそのプロジェクトの第一弾としてリリースされました。
【主な商品の価格】
裏表前後ろのないポケットTシャツ: ¥5,478
裏表前後ろのないすっきりフィット靴下:¥2,090
裏表前後ろのないパンツ 各種:¥5,390〜¥6,578
【コメント】
ZOZO、アダストリアに続きましてフェリシモが登場。シンプルで可愛いTシャツで、とても素敵です。ポケットが大きく裏表についているとのことで、内側のポケットも活用できそう。カイロを入れたり、貴重品を入れたり・・・。女性だと衛生用品を忍ばせても良いかもしれません。
パンツも履きやすそうですし、こちらも裏表にポケットがあり収納力が抜群です。靴下も踵がないということは、一部だけが擦れて穴が開く確率が低くなって長持ちなのでは?と思いました。
不便に感じている人と商品を作ったら、それが誰にでも便利なものになる。「インクルーシブデザイン」のお手本のような洋服です。
まとめ
国内のブランドだけでも、さまざまなアプローチで「誰でも着られる」「着やすさに配慮した」服作りが進んでいることがわかりました。
インクルーシブファッションやアダプティブウェアの広がりは、単なるトレンドではなく、ファッション業界全体のあり方を変える動きになっています。
紹介した多くの企業が掲げているように、障がいのある人も病気の人も、誰もが「多くの選択肢の中から気に入った服が選べる」世界が実現することを望みます。
今後、さらに多くの企業やブランドがこの分野に参入することで、選択肢が増え、より多くの人がファッションを自由に楽しめる社会になることを多くの人が願っているのではないでしょうか。
後半では 「国外」のアパレルブランドを中心に紹介予定です。海外ではどのようなブランドがどのような視点で展開しているのか、ぜひ続編もお楽しみに!

システム会社に入社後、主にグループ会社向け基盤システム構築・運用・監視業務及び認証取得業務を担当。
出産を機に退職。
その後、結婚式場など飲食店でのサービス職と工場の事務員で仕事復帰。
工場の倒産後に、ノーティカルをはじめ、工場でお世話になった方々に声をかけていただき、通勤&リモートでトリプルワーク中。
高校1年生と中学1年生の母。子供に振り回される日々を送っている。
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